雪の降った翌朝6時。
諏訪大社下社秋宮の神楽殿からは、朝の神事「朝御饌祭 (あさみけさい)」の合図である、太鼓の音が静まり返った境内に響きます。
ドンドンと太鼓がなるたび、腹の奥に響く振動を感じながら、ひと気のほとんどない境内に佇んでいると、異世界に入り込んだ感覚になります。
秋宮周辺には、地元の人が日常的に通ういくつかの公衆浴場があります。
自宅にお風呂があっても外に入りに行く習慣のある住民もめずらしくありません。
早い銭湯だと朝5時、大体は5時半から営業します。
今年は降雪日が多い諏訪地方ですが、寒さの中にも時折、春の気配を感じ始めています。
降り積もった雪も昼には消えていることも多いため、雪景色を見るなら朝しかありません。
そんなわけで、大社の雪景色を見るために早起きしました。
朝湯に浸かって身を清めてから大社詣に向かいます。
秋宮に一番近い「児湯」。
営業開始時間の5時半を目指していくと、洗い場にはすでに5人ほどの先客。
上がる人、入ってくる人。早朝なのに絶えず人が出入りします。
湯に足を入れるとジンと熱さが伝わり、そのまま体を沈めると思わず、あぁと声が出ます。
目を閉じて湯の温度が体中になじむのを感じながら、十分にお湯の感触を堪能します。
なんて贅沢なひとときでしょうか。
温泉が近くにある有難さ、それを守り続けているお風呂屋さんと住民に感謝です。
身体もすっかりと目覚め、すっきりした気持ちで秋宮へ参ります。
ギュッ、ギュッと雪を踏みしめながら鳥居をくぐります。
まだ明けきらない早朝の僅かな光のなか、灯篭の暖かな光が降ったばかりの蒼い雪を照らし出します。
ゆっくりと石段をあがり、神楽殿の横を通り過ぎるころに太鼓の音が響きました。
太鼓を打つ振動が社の床板を揺らしています。
奥の弊拝殿に明かりが灯り、昼とは別の表情です。
肌を切るような冷気と、わずかな森の香り。
雪景色の境内に響く太鼓の音。
心身ともに浄化された気分で石段を下りました。
鳥居越しに見下ろす下諏訪の街並みも蒼く染まっています。
社会が活動を始める少し前。
忙しく過ぎていく生活の中にも、諏訪盆地には静寂の時間が存在しています。
素敵なレイクライフを。